部落解放同盟とは

部落解放同盟とは

部落解放同盟は、全国水平社の歴史と伝統を正しく受け継ぎ、部落差別の撤廃と人権社会の確立を目的とする、部落大衆自身による大衆団体です。
1922年(大正11)に全国水平社が創立される以前は、部落差別が社会悪であるという考えがなく、部落の人びとの身なりや言葉づかいが悪いから差別されるとして、そのことの改善に力が注がれていました。
これにたいして、全国水平社は、部落差別を社会の問題であるとし、経済的職業的自由を要求するとともに、差別にたいしては、これまでのように泣寝入りせず、差別者にたいし抗議をする方針(差別糾弾闘争)をたてました。そして、”人の世に熱あれ、人間に光あれ”で結ばれる、わが国最初の人権宣言でもある「水平社創立宣言」を採択しました。
戦争がはじまり、運動に対する弾圧もありましたが、全国水平社の運動は、解放の父・松本治一郎委員長の指導の下、部落解放全国委員会(1946年結成)、部落解放同盟(1955年改称)と引き継がれ、差別行政反対闘争を経て、劣悪な状況におかれていた部落の実態を改善する運動へと、積極的に展開されてきました。
部落解放同盟は、部落の環境改善や部落大衆の生活擁護、仕事保障、教育の機会均等のための運動を展開してきました。現在、「部落解放基本法」の制定要求や、1963年、埼玉県で起きた「狭山事件」で部落への予断と偏見による見込み捜査で犯人とされ、無実を訴え、再審をもとめつづけている石川一雄さんを支援するたたかいなど、組織的に運動を続けています。
そのほかに、国際人権規約の完全批准など国際人権諸条約の批准の実現、身元調査お断り運動、反戦・平和・環境運動など、日本社会のあらゆる差別撤廃と人権保障にむけたとりくみをすすめています。
また、「世界の水平運動」をめざして、世界の被差別者、反差別の人権団体と交流連帯を深めるとりくみをすすめています。その中から、1988年には、「反差別国際運動(IMADR)」が、部落解放同盟を中心に内外の反差別運動団体・個人によって結成され、1993年、国連NGO登録を果たし、日本ばかりではなく、全世界の人権確立を求め、差別をなくす運動の大きな支えとなっています。

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部落解放同盟綱領

2011年3月4日/第68回全国大会決定

(1)
部落解放同盟は、部落民とすべての人びとを部落差別から完全に解放し、もって人権確立社会の実現を目的とする。部落解放同盟は、目的実現のために結集する部落民を核とする大衆運動団体であり、水平社宣言に謳い上げられた「人間を尊敬する事によって自ら解放せんとする者の集団運動」である。
部落民とは、歴史的・社会的に形成された被差別部落に現在居住しているかあるいは過去に居住していたという事実などによって、部落差別をうける可能性をもつ人の総称である。
被差別部落とは、身分・職業・居住が固定された前近代に穢多・非人などと呼称されたあらゆる被差別民の居住集落に歴史的根拠と関連をもつ現在の被差別地域である。
(2)
現在の部落差別問題とは、自由と平等を原理とする近現代社会でも、前近代から引き続く長い歴史の中でつくられてきたケガレ観的浄穢思想、血統主義的貴賤思想、家父長的家思想などにもとづく差別意識やそれを温存・再生産する明治期以降の新たな社会構造や法制度のもとで再編された部落差別の存在によって、被差別部落に属するとみなされる人びとが、人間の尊厳や市民的権利(職業・教育・結婚・居住の自由などの基本的人権にかかわる根幹的権利)を不当に侵害されている許し難い社会問題である。
部落差別撤廃のための幾多のとりくみがなされ、被差別部落の低位劣悪な生活環境などが大きく改善されてきたが、今日もなお部落差別は現存している。とりわけ、21世紀初頭前後からの新自由主義路線の台頭のもとで日本社会の格差は拡大し、部落差別撤廃へのとりくみは逆流現象を引き起こし、差別身元調査や土地差別事件、さらにインターネットでの差別書き込み事件など「顔の見えない陰湿で巧妙な差別」が横行している。
部落差別が存在することによって、部落民が社会的に排除され、孤立させられていると同時に、支配秩序維持のための政治的分断機能や超過利潤追求の経済的搾取機能、民衆の不安・不満をそらす安全弁としての社会的統合機能の役割を果たさせている。
部落解放運動は、社会的排除・忌避や孤立・分断を許さず、断固として差別撤廃をめざし自由と平等の実現のために闘うという社会的・歴史的使命を担っている。
(3)
部落解放運動は、部落差別の不当性を糾弾し、排除なき社会参加をかちとり、差別・被差別の関係を克服していく社会連帯を実現する運動である。
部落解放同盟は、差別を生み出し支える社会的背景を根本から改革していく闘いを推しすすめる。さまざまな差別の複合性や共通性に立脚し、あらゆる差別を許さない社会意識と社会構造をつくりだし、差別から自由な人間変革をかちとることによって、差別・被差別の壁を乗り越えた国内外の社会連帯と協働の力で部落解放の実現をめざすものである。
全国水平社から部落解放全国委員会、そして部落解放同盟へと受け継がれてきた部落解放運動は、差別糾弾闘争や行政闘争を通じて差別社会を変革するために長年にわたり奮闘してきた。
部落解放同盟は、長い闘いの歴史を継承しつつ、今まさに自立・自闘と共同闘争の力によって「部落解放の実現した具体像」を明確にし、「佳き日」への現実的な闘いに突きすすまなければならない段階に到達している。
部落解放が実現された状態とは、部落民であることを明らかにしたり、歴史的に部落差別を受けた地域が存在していても、何らの差別的取り扱いや排除・忌避を受けることなく人間としての尊厳と権利を享受し、支障なく自己実現ができる社会環境になることである。
(4)
部落が解放された社会環境や状態をつくりだすためには、憲法の基本精神の具体化を通じて次のような条件を整えることが必要である。
第1の条件は、部落民の人間としての尊厳が確保され、人間らしい生活を安心して営むことができていることである。
第2の条件は、部落差別の禁止や差別の再発防止、差別被害の救済などにかかわる法制度が整備されていることである。
第3の条件は、国際的な人権基準などを踏まえた人権教育・啓発が社会の隅々までいきわたり、差別を許さない人権文化が確立されていく基盤整備ができていることである。
第4の条件は、差別撤廃・平等化実現への公的な行政責任が明確にされ、必要な差別撤廃への積極的な是正措置をとることができる行政機構の確立がはかられていることである。
第5の条件は、共生の権利の承認が根づいた新たな地域社会・共同体が創出され、人と人との豊かなつながりの構築が実現されていることである。
(5)
部落解放同盟は、部落解放へ向けた社会的条件をつくりだすために、具体化への基本目標を次のように設定する。
①就労・教育を軸とした被差別当事者の自立支援システムの構築
②誇りうる被差別部落の伝統芸能や技能の発掘と継承・発展
③国内人権機関の創設および自治体の人権救済制度の確立
④「人権基本法」・「差別禁止法」の制定
⑤国や自治体の総合的な人権行政推進体制の確立
⑥国際人権システムの活用やアジアでの地域人権システムの確立
⑦身分意識の強化につながる天皇制および天皇の政治的利用への反対と戸籍制度などの人権を侵害する法や制度の改廃
⑧公教育やメディア、企業や宗教、各種団体や地域など社会のあらゆる場で、差別的な社会意識を克服するための人権教育・啓発の推進と人権文化の創造
⑨雇用の機会均等の実現と平等の実質化、公正採用の徹底、同一価値労働同一賃金の原則の確立など差別なき労働権の確立
⑩生活保護制度、年金制度、最低賃金制度等の抜本的改革による社会的安全網(セーフティネット)の具体的構築を通じた社会保障の充実
⑪反差別的視点からの税財政のあり方の適正化や社会的富の再分配の公正化
⑫社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)構想などの具体化による排除なき社会参加の実現をめざす人権のまちづくり運動の推進体制の確立
⑬「戦争は最大の差別であり人権侵害である」との認識のもとに、平和と環境を守るとりくみによる持続可能な社会の構築
(6)
部落解放同盟は、1922年3月3日に創立された全国水平社の闘いを高い誇りと強い責任をもって引き受ける。「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と結んだ水平社宣言は、日本ではじめての人権宣言であり、現在に至るまで一貫して輝きを失うことなく継承されている部落解放運動の思想的源泉であることを確認する。
部落解放同盟は、自らの力の源泉が部落解放運動の長い歴史の中で培われてきた思想と理論の力であり、自覚的な大衆的団結の力であることを改めて確信する。そして、運動の社会的責任の自覚と倫理性の堅持にもとづいた自主解放の旗を高く掲げながら社会連帯をつくりあげる。他者依存からの脱却と仕事・雇用などの自力創出を基盤に新たな地域力を生成し、差別なき人権確立社会の実現をめざし、人権・平和・環境を基軸とした闘いに邁進する。

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